旧義歯を保管しておきたい理由
実践!口腔ケアマニュアル
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訪問診療の患者さんやそのご家族から寄せられる不満の1つに「入れ歯を作ったが合わない」「義歯の調整に時間がかかりすぎる」というものがあります。
外来で義歯を作成する場合でも、新しく作ってから数ヵ月は調整のための通院が必要です。訪問診療の場合には、さらにさまざまな理由から時間がかかることになります。
総入れ歯には、部分入れ歯のような金具はついていません。総義歯は、義歯の研磨面と印象面、そして唾液の粘調度で、吸盤のように維持している状態です。
下顎の義歯の床面積は、上顎の3分の1と小さく、さらに舌や頬や口底部の筋肉で義歯が動かされて外れる可能性があります。そのため、総義歯を作るのは上顎より下顎をの方が難しくなるのです。
総義歯を作成するには、印象採得や咬合採得、義歯の試適やセット等、多くの場面で患者さんの協力が欠かせません。
例えば精密印象を採得するときには、「はい、大きく開いて、口笛を吹いて、唾を飲み込んで」、あるいは「『む、む、む、む、む』と言って」というように、患者さんに協力してもらわないと作業が進みません。
しかし、訪問診療の患者さんの場合は、このような協力が得られないことの方が多いのです。訪問診療の患者さんには認知症等で意思疎通が取れなかったり、脳血管障害による片麻痺のため、口をうまく動かせなかったり、筋肉の不随意運動で舌や唇、下顎等がいつも動いていたりする方が多くいらっしゃいます。
こういった患者さんの場合には、一般の外来で健康な方の総義歯を作成するときとは異なる手法や技術が求められます。
例えば、口のなかの型取りを「印象」と言いますが、外来の場合には患者さんに正しく座ってもらうことから始まります。これは、下顎が重力で下がってくるのを利用して行うからです。
しかし訪問診療の患者さんの場合は寝たきりの方が多いので、下顎が垂直に下がらず、下顎全体が後ろに下がっているので、そのままでは正しい印象が取れません。さらに正しい噛み合せを決める「咬合採得」では、上下の垂直的な位置を決める必要がありますが、訪問診療ではゴシックアーチやチェックバイトという手法が診療報酬の面で認められていないため、精密な噛み合せを取るのが難しくなります。
これらの理由から訪問診療での総義歯の作成は時間がかかるのです。
患者さんが最後に使っていた旧義歯が残っていれば、それを活用して総義歯を短期間で作ることができます。ですから、合わなくなった総義歯は破棄せずに保管しておきましょう。新しい総義歯を作るときにとても役立つはずです。
「旧義歯を保管しておきたい理由」のまとめ
- 総義歯の作成には患者さんの協力が必要
- 患者さんが使っていた旧義歯が残っていれば、短期間で総義歯の作成が可能になる
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