訪問診療の保険請求では、同じ建物で何人の方を診療(指導)したか、その人数に応じて算定点数(単位数)が変わります。
ここでは、同じ場所で診る人数の区分により報酬(医療保険・介護保険)が変わるものを整理し、「同一建物居住者」と「単一建物診療患者(単一建物居住者)」の2つの考え方と、その例外も含めて確認しましょう。
目次
1. 人数による区分によって点数(単位)が変わるもの
訪問診療に関する保険請求では、診療した人数に応じて算定点数(単位数)が変わる算定項目が3つあります。
保険 | 算定項目 | 人数区分 | 人数区分 |
---|---|---|---|
医療保険 | 歯科訪問診療料 | 同一建物居住者 | 1日あたり |
訪問歯科衛生指導料 | 単一建物診療患者 | 1月あたり 月初に区分点数を確定し、日々算定 |
|
介護保険 | (介護予防)居宅療養管理指導 | 単一建物居住者 |
歯科訪問診療料は「同一建物居住者」の人数区分で、訪問歯科衛生指導料と(介護予防)居宅療養管理指導は「単一建物居住者(単一建物診療患者)」の人数区分で算定します。
それぞれの人数区分は、「同一建物居住者」の場合は1日に何人を診るか、単一建物居住者(単一建物診療患者)は1月に何人に指導を行うかで決まります。
2. 同一建物居住者
「同一建物居住者」は、歯科訪問診療料の算定の際に、同日に同じ建物で何人の歯科訪問診療を行うか、その人数を数える際に関係してきます。
「同一建物居住者」とは、基本的には、建築基準法(昭和25年法律第201号)第2条第1項にあげる建築物に居住する複数の者とされています。
ここでいう建物とは「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」です。従って、渡り廊下のみでつながっている外観上明らかに別の建物の場合、それぞれ別の建物です。
歯科訪問診療料と人数は次のような関係です。
歯科訪問診療料 | 同一建物数居住者 | 20分以上 | 20分未満 |
---|---|---|---|
歯科訪問診療1 | 1人 | 1,100点 | |
歯科訪問診療2 | 2人~3人 | 410点 | 287点 |
歯科訪問診療3 | 4人~9人 | 310点 | 217点 |
歯科訪問診療4 | 10人~19人 | 160点 | 96点 |
歯科訪問診療5 | 20人以上 | 95点 | 57点 |
歯科訪問診療料1は、1つの建物で1日に1人だけを診た場合に算定するものです。
歯科訪問診療料2は、同じ建物内で同じ日に2人から3人を診た場合、患者1人につき算定する点数です。
歯科訪問診療料3は、同じ建物内で同じ日に4人から9人を診た場合、患者1人につき算定する点数です。
歯科訪問診療料4は、同じ建物内で同じ日に10人から19人を診た場合、患者1人につき算定する点数です。
歯科訪問診療料5は、同じ建物内で同じ日に20人以上を診た場合、患者1人につき算定する点数です。
3. 同一建物居住者の例外
同居する同一世帯の複数の患者に対して診療を行った場合、同じ日に同一の患家において2人以上3人以下の患者の診療を行った場合は、例外的なカウント方法になります。
同じ日に同一の患家において2人以上3人以下の患者の診療を行った場合は、そこで診た全ての患者それぞれに対して歯科訪問診療料2を算定するのが原則です。
しかし、同じ日に同居する同一世帯の複数の患者に対して診療を行った場合は、患者1人は歯科訪問診療料1を算定し、それ以外の患者に対しては歯科訪問診療料2を算定します。
ここでいう同一世帯とは、生計(家計)を同じくし、一緒に生活を営んでいる世帯のことです。
4. 単一建物診療患者(単一建物居住者)
「単一建物」が関係するのは、訪問歯科衛生指導料と介護保険の居宅療養管理指導費です。訪問歯科衛生指導料の場合は「単一建物診療患者」、居宅療養管理指導では「単一建物居住者」といいます。
それぞれ、同一月に同じ建物内で何人の訪問歯科衛生指導や居宅療養管理指導を行うか、その人数を数える際に関係してきます。
訪問歯科衛生指導料と介護保険の居宅療養管理指導費は、それぞれ月初に区分点数を確定し、日々算定します。
つまり、訪問先で何人を診るのか、月初に人数を確定しておき、その際の人数区分で、実施した日ごとに算定します。
訪問歯科衛生指導料
単一建物診療者数 | 点数 |
---|---|
1人のみ | 362点 |
2~9人 | 326点 |
10人以上 | 295点 |
居宅療養管理指導費
単一建物居住者数 | 歯科医師が行うもの | 歯科衛生士等が行うもの |
---|---|---|
1人のみ | 517単位 | 362単位 |
2~9人 | 487単位 | 326単位 |
10人以上 | 441単位 | 295単位 |
例えば、次のように訪問歯科衛生指導料を算定した場合を例にしてみましょう。
1日:特養Aで①②の2人、老健Bで③の1人
7日:特養Cで④⑤⑥の3人、老健Bで③⑦の2人
15日:特養Dで⑧⑨⑩⑪の4人
20日:特養Dで⑫⑬⑭⑮の4人
この月の単一建物診療患者は次のようになります。
特養Aは①②の2人。
老健Bは③⑦の2人。
特養Cは④⑤⑥の3人。
特養Dは⑧~⑮の8人。
老健Bの患者③は、1日と7日の2回になっていますが、同一月の延べ人数ではなく、実際に診た人数になります。
簡単に言えば、同じ月に、同じ建物で訪問歯科衛生指導料を算定したレセプト数が何枚あるか、それが単一建物診療患者の数です。
5. 単一建物診療患者(単一建物居住者)の例外
ただし、この単一建物診療患者(単一建物居住者)の数え方には例外が4つあります。
例外1:複数病棟のある病院のケース
それぞれの病棟において、訪問歯科衛生指導料を算定する人数を単一建物診療患者の人数とみなします。
ここでいう病棟とは建物のことではなく、看護体制の1単位のことです。例えば、1つの建物の2階に一般病棟、3階に療養病棟があれば、それぞれが1つの病棟となります。
例外2:ユニットが3以下のグループホームのケース
ユニット数が3以下の認知症対応型共同生活介護事業所(グループホーム)については、それぞれのユニットにおいて、居宅療養管理指導費を算定する人数を、単一建物居住者の人数とみなします。
つまり、同じ建物内であっても、1つのユニットを1つの建物のように考え、単一建物居住者として数えることになります。
同一の建築物において、認知症対応型共同生活介護事業所と集合住宅が併存する場合は、認知症対応型共同生活介護事業所とそれ以外で区別し、次のように算定します。
- 当該建築物のうち認知症対応型共同生活介護事業所については、それぞれのユニットにおいて、居宅療養管理指導費を算定する人数を、単一建物居住者の人数とみなします。ただし、1つのユニットで1つの同一世帯の利用者のみに居宅療養管理指導を実施する場合には、利用者ごとに「単一建物居住者が1人の場合」の区分で算定します。
- 当該建築物のうち認知症対応型共同生活介護事業所以外については、認知症対応型共同生活介護事業所で居宅療養管理指導を実施する人数を含め、当該建築物で居宅療養管理指導を実施する人数を単一建物居住者の人数とします。
例外3:同居する同一世帯のケース
同一居宅に居宅療養管理指導費の対象となる同居する同一世帯の利用者が2人以上いる場合、居宅療養管理指導費は、利用者ごとに「単一建物居住者が1人の場合」を算定します。
同一の集合住宅に、居宅療養管理指導費を利用する「同居する夫婦の世帯」が2世帯ある場合は、それぞれに「単一建物居住者2人以上9人以下に対して行う場合」の区分により算定することになっています。
また、同一の集合住宅に、居宅療養管理指導費を利用する「同居する夫婦の世帯」が1世帯と居宅療養管理指導費を利用する者が「1人の世帯」が8世帯ある場合の区分については、「単一建物居住者10 人以上に対して行う場合」の区分により算定します。
つまり、「同一世帯居住者」の例外は、1つの建物で1世帯のみの場合にだけ適用されるということです。
例外4:戸数の10%以下又は20戸未満のケース
居宅療養管理指導を行う利用者数が、当該建築物の戸数の10%以下の場合又は当該建築物の戸数が20戸未満であって、当該居宅療養管理指導事業所が居宅療養管理指導を行う利用者が2人以下の場合には、それぞれ「単一建物居住者が1人の場合」を算定します。
6. 月途中で人数が変更になった場合
訪問歯科衛生指導料と居宅療養管理指導費は、月初に区分点数を確定し、日々算定します。
そのため、月の途中で単一建物診療患者(単一建物居住者)の人数が変更になることがあります。その際の算定はどうすればよいのでしょうか。
ここでは、居宅療養管理指導の場合で解説しますが、訪問歯科衛生指導の場合も同様です。
居宅療養管理指導の利用者が死亡する等の事情により、月の途中で単一建物居住者の人数が減少する場合は、当月に居宅療養管理指導を実施する当初の予定の人数に応じた区分で算定することになります。
同一の建築物の 10 名に居宅療養管理指導を行う予定としており、1名が月の途中で退去した場合は、当該建築物の9 名の利用者について、「単一建物居住者 10 名以上に対して行う場合」の区分で算定します。
また、居宅療養管理指導の利用者が転居してきた等の事情により、月の途中で単一建物居住者の人数が増加する場合は、次のように算定します。
- 当月に居宅療養管理指導を実施する予定の利用者については、当初の予定人数に応じた区分により算定します。
- 当月に転居してきた居宅療養管理指導の利用者等については、当該転居してきた利用者を含めた、転居時点における居宅療養管理指導の全利用者数に応じた区分により、それぞれ算定します。なお、転居や死亡等の事由については診療録等に記載します。
同一の建築物の9名に居宅療養管理指導を行う予定としており、1名が月の途中で転入した場合は、当初の9名の利用者については、「単一建物居住者2人以上9人以下に対して行う場合」の区分で算定し、転入した1名については、「単一建物居住者 10名以上に対して行う場合」の区分で算定します。